NPT再検討会議での演説後、記者団の取材に応じる岸田首相
=8月1日、米ニューヨーク(共同)
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岸田文雄首相が、米ニューヨークで開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議で演説した。「核兵器のない世界」の実現へ、核戦力の透明性向上や米露、米中間の核軍縮対話、各国指導者の被爆地訪問などを求める行動計画を提唱した。
核軍縮や不拡散、原子力の平和利用を定めたNPTの運用を検証する会議への日本の首相の出席は初めてだ。
岸田首相は演説で、ウクライナを侵略中のロシアによる核の威嚇を批判し、北朝鮮やイランの核問題に取り組む考えも示した。
行動計画は、「核兵器のない世界」という理想と、「厳しい安全保障環境」という現実を結びつける「現実的なロードマップの第一歩」との位置付けだ。行動計画を着実に推進してもらいたい。
だが、今回の行動計画だけでは、現実の核の脅威から日本国民を守れない。それは岸田首相も認識しているはずだ。
林芳正外相の行動がそれを示している。林氏は7月29日、米ワシントンでブリンケン米国務長官と会談し、中国の核戦力増強や北朝鮮の核問題、ロシアのウクライナ侵略に言及した上で、米国の核兵力などで日本を守る「拡大抑止」の信頼性、強靱(きょうじん)性の向上を訴えた。ブリンケン氏も同意した。
岸田首相は演説で「被爆地広島出身」だと強調しつつ、「長崎を最後の被爆地にしなければなりません」と訴えた。そうであるならば、国民が再び核兵器の惨禍に見舞われないようあらゆる手立てを講じなければならない。
日本防衛に資する米国の「核の傘」が、中国や北朝鮮、ロシアに対してきちんと機能しているのかどうか。不断の検証と説明が欠かせない。
これら3カ国は国際社会の懸念をよそに核やミサイル戦力の増強に余念がない。特に中国は日米両国が持っていない地上発射型の中距離弾道・巡航ミサイルを約2200発も保有している。核弾頭を増産し、8年後には少なくとも1000発をそろえる見通しだ。
「核兵器のない世界」の理想を唱え、行動計画を進めるだけでは日本国民に向けられた核兵器の脅威はなくならず、むしろ危険度は増していく。
岸田首相は日本国の首相として、核抑止の重要性を国民に積極的に説明し、米国と協力して態勢強化を急ぐ必要がある。
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2022年8月3日付産経新聞【主張】を転載しています